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「こうして神々しいお姿を拝むことが出来ただけでも有り難く勿体ないことでございますのに、この上何を望むことがありましょう。これまで通りで十分で」
亭主の喜八が手を合わせ、薄くなった頭を畳にすりつけてひれ伏しますと、
「ええ、ええ。私達の命数が尽きるまで、無事に暮らして行けさえすれば……」
言いさして女房のお由布は、はっと息を呑み、
「いえ……では、どうか子どもを……」
「お前、そのことはもう諦めようと、あれほど――」
「いいえ、いいえ! ただ一つ、そのことだけが心残りだったんでございます。せっかく、どんな願いも聞いて下さると仰っているのですもの……」
お由布はぽろぽろと涙を零し、女神様はにっこりと微笑みました。
「分かりました。確かに、聞き届けましたよ」
翌日、喜八、お由布夫婦は顔を見合わせまして、あれは夢だったのかしら。それにしては、二人同じ夢を見るとは不思議だと、そう言い合いながら常と同じく神社の石段を登って参りましたところが、
「オギャア、オギャア――」
境内の松の木の根方で、生地は粗末ながら幾重にも産着に包まれ籠に入れられた赤子が、元気よく泣いているのを見つけ、これこそは神様の思し召しと手を取り合い涙を流し、三拝九拝して赤子を抱いて帰りました。
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