0人が本棚に入れています
本棚に追加
このしみったれた世界を今こそ変えてやるっ!
革命を志す理想主義者のごとき気炎を上げ、福田胡桃は敢然と世界に立ち向かった。
彼女の世界。すなわち、朝起きて、学校に行って、授業中寝て、友人とおしゃべりして、部活行って、帰って、ドラマ見て、宿題をやらずに寝る。平々凡々な世界。まことにしょうもないと言わねばならない。胡桃はうんざりしていた。彼女は現在中学二年生である。去年の一年間、そういうツマラン生活をして、胡桃は飽き飽きしたのである。
「こんなのは本当のわたしじゃない!」
いったん変えようと決意した彼女の行動は早かった。胡桃はイマドキの女の子である。救いの手が伸びるのをグズグズ待ったりしないのだ。カボチャを馬車にしたり、薄汚れたチェニックを豪華なイブニングドレスにしてくれたりする老婆を待つには、現実的だったとも言える。
そうして今、五月の中旬、あかね射す中学校の校門前、胡桃は世界を変える呪文を唱えた。
「す、好きです。つ、つ、つ、付き合ってくだしゃい」
まともにどもって、あまつさえ噛んでしまった彼女のその心臓は、フルマラソンを走破したマラソンランナーのそれのごとくばくばくと鳴っていた。普段は全く自己主張をしないくせに、こんな大事なときにドキドキドキドキ、何をはしゃいでいるのか、うるさくてたまらない。心臓よ止まれ、と聞こえようによっては怖いことを一心に願っている胡桃の前に、一人の少年が立っていた。
胡桃の呪文を浴びた彼は、彼女のクラスメートである。贅肉をそぎ落したような無駄のない体つきをしているが、けして不健康なものではなく、それはまるでクリスタルカットされたダイヤモンドを思わせた。
黙考する彼の前で、胸の動悸がおさまらない胡桃。
いわゆる「告白」というものを生まれて初めて彼女はしたわけであるが、こんなに緊張するものだとは聞いていなかった。話が違う! 責任者、出てこい! 胡桃が心の中で怒りをぶちまけたのは、友人に対してである。
というのも、彼女らは揃ってこんなことを言っていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!