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「聞かせてもらうわよ、クルミ。なんで、コタロウくんとあんたが付き合うなんて話になってんのか」
取り巻きの二人を両横に控えさせ、仁王立ちでこちらをねめつけるその姿は非常に女の子らしいと言わねばならない。男子の前でもやってみればいいのにと胡桃が皮肉げに思っていると、じりじりと間合いが詰められる。胡桃は壁際に追い込まれた。
他人の幸福を素直に祝うことができる、そういう人間だけでクラスが構成されているとしたら、どんなにか美しい学生生活を送れることだろう。だが、現実はそう甘くはない。他人の幸せをねたみそねみ、あまつさえ、「そんなものはぶっ壊してやるわ」などと考える不届きな輩もいるのである。
「さあ、正直に言いなさい。どんな卑怯な手を使ったのか。包み隠さず、全部ね」
そういう輩の一人が今目の前にいる彼女である。
「コタロウくんがあんたと付き合うなんて信じられない。何か事情があるんでしょ」
堂々と立ち向かったのに、陰湿な策謀を用いたようなことを言われて、ムッとした胡桃だったが、彼女一人だけならまだしもその左右に一人ずつ付き人がおり、状況は三対一。この数的不利を覆すことができるほどの実力がない胡桃としては、正直に答える他なかった。
「え、なんで? 何でクルミの告白、普通に受けちゃうの? わたしだって一年の時告白したんだけど断られてるんだよ。何でクルミなのよっ。おかしいでしょ」
髪を振り乱し恐慌状態に陥る少女を目前にしながら、彼女を選ばなかった小太郎の慧眼に、胡桃は感服した。
女子が一人入ってきて、「な、なに? イジメ? イジメなの?」的な好奇と同情が混ぜられた目で一瞥して、個室へと消えた。まさか、ロマンティックな話をしているとは夢にも思うまい。せめて校舎の屋上にでも呼び出してくれれば格好もつくのに、とロケーションの変更を求めたいクルミだったが、そもそも屋上は進入禁止であった。
「でもさ、クルミで良かったかもよ。すぐに別れることになるかもしれないし」
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