第一章 会社にて

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定時を少し過ぎたころ梁瀬が営業から戻ってきた。 「ただいま、戻りました。」 「そんだけ?」 「ご苦労」 「二度と頼まれてやらないぞ」 「お忙しいところ申し訳ございませんでした。貴殿のご助力により事なきを得たことに感謝の意を表したく。」 「普通に『ありがとう』っていえないの?」 「ありがとうございます。つきましてはお礼に缶コーヒーなど」 「いいから仕事しなよ」 既にその日の仕事をやり終えていた私はまた余計な仕事を押し付けられる前に帰宅したかったが珍しく 「本当にお礼の意味でのみに行かない?」 と梁瀬が誘ってきた。特に予定があるわけではなかったけど 「いや、やめとくコーヒー一杯であれだけ頼まれるなら一杯飲んだら何頼まれるかわかったもんじゃないからね。」 「そんなことないよ、たまには同期で親睦を深める意味でちょっと飲みにいくのもいいかなと思って、あとお礼ってのも本当だよ。」 「いや、あんたの半分は嘘で残りの半分は世渡り上手で出来てることはわかってるから」 「ひどい言われようだな」 「今日は家でご飯食べるって言っちゃってるからまた改めて誘ってくださいな。」 「奥さんの怖い旦那さんみたいだな。じゃあ改めてお誘いします。」 「はいよ。」 家に帰ると食事があるというのは嘘だった。別に梁瀬のことが嫌いなわけではないが無理に付き合うほど好きと言うわけではない。ただ今日は誰かと飲みに良く気分ではなかったし帰り道に寄りたい場所があった。そこは会社関係とは別の場所にしておきたかったから。プライベートとオフィシャルが一緒にするほど会社の人とは馴染んでいない。
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