第一章 会社にて

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「あめんぼあかいなあいうえお うきもにこえびもおよいでる かきのきくりのきかきくけこ・・・」 「あ・え・い・う・え・お・あ・お」 講義のない部員たちがすでに発生練習をしているなか部室に行き荷物を置くとそのまま私も練習にでる。北原白秋の『あめんぼの歌』はそらで言えるくらいに繰り返した下郎売りも週に一回はやっていたがなかなか最後までソラでは言えなかった。 大学公認の演劇部に所属し私の4年間はバイトと演劇に費やされた。非公認の演劇サークルもあったが部室をもらえないのと劇場使用許可が取りやすいとのことで公認サークルに所属したのだが当然部員数も多く練習もきつい。やる内容によってはダンスを取り入れたり派手なアクションをすることもあるので文化部とは言え季節ごと流行スポーツをやる半飲み会サークルよりずっと身体を動かす時間は長い。肺活量の増大と基礎体力の向上のために講義の合間にジャージに着替えて校舎の周りを走る人も多い。もちろん見た目重視なのは学生演劇でも同じで体型を維持するために走ってる人も多い。 台本を覚え、演技を練習し、解釈について語り合う。衣装や大道具、小道具などいろいろと持ち出しも多くバイトに明け暮れ、きつい練習をこなし、演劇について語り合う。 毎日くたくたになりながら場合によってはお風呂も入らず寝てしまう。でもそんな毎日が楽しくてしょうがなかった。努力すれば報われると信じてひたむきになれた無垢な年頃だったのだ。 私たちのサークルでは人数も多かったため有名劇団のように「花組」「鳥組」「風組」「月組」と4チームに分かれて公演を行っていた。 学校の施設を使用するときは良いが外部の箱を借りてやるときには使用料他結構な費用がかかる。また公演を行わないか次の公演まで間がある組が大道具や小道具の作成、書割や照明の手伝いを行い相互扶助の精神で助け合っていた。 だが所詮学生がやる公演に観客が集まるわけもなく数人のゼミ友や内輪だけなんてことも多々あった。
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