第1章

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東京大学でうっかり心理学など學んでいるものだから親戚の厄介事が私の所に持ち込まれて来る。高校で英語と数学と物理が得意でなかったら大学受験などしなかったものを。大人しくアイドルだけしていれば良かった▼今回の相手は遥かに齢の離れた従姉で元・女優なのだが40過ぎても未だに精神年齢が12歳なのに流石に実の母親が不安を覚えたらしく私が現地調査に派遣されたのだった。こんなことなら中学の卒業論文で総長賞を受賞し得意気に全国紙の地方欄に出るんじゃなかった。尤も親戚中に触れ回ったのは母の所業だが。そもそも小学生だった私を女子学院に放り込んだのも▼さて件の女優宅―そこは20年以上前に建てられた海に面したタワーマンションの14階にあるコンドミニアムだったが―普通に汚部屋であった。家庭教師のバイトの時給が東大生価格で1万円でなかったらダスキンのバイトとして室内清掃をしたくなる位の見事な汚れっぷりだった▼それは本人の心の中も同じ。服装の乱れは心の乱れとは良く言ったものだ▼美容室に行く序での買い物とやらに付き合わされたのだが兎に角態度がデカい。まるで一昔も二昔も前の大女優であるかのように。因みに当の本人は映画やTVドラマにちょっと出た程度なのだが。尤も本当の大女優が謙虚極まりないのは容易に想像が付く▼加えて相手のちょっとしたミスを激しく追及する。他人に厳しく自分に甘いとはこのことだ。曾ては美しかった首から下のボディはどんなにスリーサイズを秘匿した所でオール3ケタなのは一目瞭然であった▼なかんずくその顔が実に醜い。これも曾てはと言うか今も美しいは美しいのだが。白雪姫の悪い継母が美しいと言った類いの美しさなのだ。見ているだけで気が滅入って来る▼尤も全ては幼い頃から見た目の美しさをもてはやして来た周囲の大人達―特に男達の責任であろう▼治療不能。後は運悪く捕まってしまった馬鹿で不運な男共に押し付けることにして私は早々に雑誌の撮影現場に向かったのだった▼人間とは度し難いものだ
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