【営業マン・梶谷の物語】

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【営業マン・梶谷の物語】

「あ、そうですか。注文をキャンセルですか」 営業マンの梶谷(かじたに)は、努めて明るい声で取引先と電話で話す。 「いえいえ、それは仕方のないことですよ。来期にペンディング(延期)っていうことなら、むしろ少し安心しました。今後も引き続き、よろしくお願い致します」 東京駅の中央線のホームで、電話を終えた梶谷(かじたに)はフーと溜息(ためいき)をついた。 一刻も早く新宿の社に戻り、半年後に迫る決算期に向けて、穴埋めとなる案件の見直しをしなければならない。なにせ、このキャンセル案件の受注をアテにして、課の受注目標額にちょうど到達すると踏んでいたからである。 始発駅に停車する中央特快に乗り込み、()いている座席を探し、梶谷(かじたに)は腰を下ろした。記憶にある案件を頭の中で探ってみたが、良さそうな案件が思いつかない。
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