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こよみは、玄関をでて、ちゃんと自分の靴を履いて外を歩いていた。
軽いパニック状態から少し脱して、段々と抜けた二日間の記憶を取り戻しつつあった。
(記憶喪失とかじゃなくて良かった……)
二日前、孤児院にこよみを引き取りに来た女の人がいたのを思い出した。
自分が母親だと名乗るその人は、こよみの母親にしては若すぎるような気がした。もしかしたら、それでまだ生まれたばかりの赤子だったこよみを孤児院の前に置き去りにしたのかもしれない。
女の人は、立花先生と何か話をしていた。とても重要な話を聞いた気がするけど、忘れてしまった。
立花先生はこよみのことをよく気にかけてくれた、一番お世話になった先生だ。
最初にこよみを拾ってくれたのが立花先生で、こよみの名付け親でもある。苗字は孤児院の院長先生から貰った。
出来るだけ自分のものを捨てて荷物を旅行バックにまとめると、立花先生との涙ながらのお別れをした。
その後はとても慌ただしかった。元々唐突だったけど、さらに、だ。
女の人は転校手続きはもう済ませてあるといって、半ば強引に首都まで移動した。
転校の挨拶も出来ないなんて、何をそんなに急いでいるのだろう。
こよみは、女の人とどこかのホテルに泊まった。
明日の予定を説明された後、そのまま眠ってしまった。
2日前の記憶はここで途切れている。
(あの女の人、今考えたらいかにも怪しいよね)
母親だと名乗ったわりに、サッと現れ、また消えてしまった。
情が湧いたとか、育てられるようになったから引き取りに来たのかと思っていたけど、だったらまた消えてしまったのはおかしな話だ。
あまりに淡白で、少しだけ寂しく思っているのかも知れない。
突然降って湧いた母親の存在に、結構期待していたのかも知れない。
母親の愛情なんて、受けたことはないのに。
こよみ「あれかな?」
昨日説明を受けた建物。寮をでて、子供の喧騒が聞こえる建物を二つほど超えた先。一際大きな建物が、そこにはあった。
こよみは頭に浮かんだ暗い想いを打ち消し、目当ての場所に向かって、しっかりと一歩を踏み出した。
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