妖怪の嫁入り

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

妖怪の嫁入り

「続きまして、新婦による花嫁の手紙の朗読です」  ろくろ首と大頭小僧が生演奏の余興を終えたところで、いよいよ花嫁が朗読する手紙を手にマイクの前に立つ。  苦労人で有名な花嫁がついに、ということもあってか、彼女を今まで見守ってきた友人知人の感動も一入である。新郎が穏やかな表情で見送り、ステージ中央を見守る招待客も期待で満ちたまなざしを向ける。今回の司会者であるぬらりひょんの合図で、小豆洗いが弾くピアノがカノンをゆったりと奏で始めた。  囁くように会場内の明かりが落とされ、花嫁が手元に目を落とす。 「皆様、本日はお忙しいところ、私たちの結婚へご列席頂きまして……」  花嫁から語られる、自分が泣き止まない時に様々な声まねで楽しませてくれた父、料理の味付けからヒトの騙し方を教えてくれた母への恩。ヒト社会に溶け込みつつも妖怪として生きること、ある村の農家を騙したこと。これまで生きてきた100年間を傍らで支えてくれた親への感謝が嗚咽交じりの声で読み上げられる。  会場の感動のボルテージは水面に落ちた水滴の波紋のように広がり、また花嫁自身の瞳が徐々に潤いを帯びてくる。  
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!