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宇宙船は、太陽系を離れるのを待ってから、超光速の自動運転に入った。
恒星系「ルシファー」までの行程は、予めプログラミングされている。もし航行途中で、予測外の彗星や小惑星に接近しても、自動回避システムが働いて、回避・軌道修正する。
僕らは、出航後の2週間とルシファー到着直前の1ヶ月間しか活動しない。残り11年と10ヶ月半をコクーン内で、仮死に近い睡眠状態で過ごすのだ。
医療マニュアルによると、最初の2週間は、宇宙空間に慣れるまでの期間であり、最後の1ヶ月は、覚醒後、正常な再活動のために必要な期間とされた。
『次に目覚めた時は、28歳かぁ』
マキネン君が、入眠前最後のエナジーパックを吸いながら頭を掻いた。
最後の晩餐は、一緒に摂ろう――。
船長の提案により、僕らは食堂室に集い、円形テーブルを囲んだ。晩餐、というにはつまらない、いつものエナジーパックのはずだが、何だか特別な味がする気がした。
『お前はいいよ。俺なんて40歳だぞ』
最年長のドクターが、顔をしかめる。
『ああ、もう。年齢の話題は止めて頂戴!』
クロエさんが、一同に強い視線を送る。男性陣は気まずく苦笑いして、肩をすくめた。
『……12年後の姿も、君は美しいさ』
スチュワート船長は、隣の優秀な副船長に温かな眼差しを向けて微笑んだ。
『女盛りを寝て過ごすのよ? 地球に戻ったら、すっかりオバサンだわ』
それでも彼女は眉間の皺を深くすると、左手をヒラヒラと振って否定した。
『そう悲観することもないんじゃないか? 代謝が抑えられているから、年齢は重ねても身体は遥かに若いぞ』
『まぁ、そうね。気休めでも、ありがとう、ドクター』
パックを飲み切った彼女は、アルカイックスマイルを返した。
『無事に目覚めたら、また乾杯といこう』
『このエナジーパックでな!』
船長の締めの言葉を受けて、ラッセルさんは飲み干した空のパックを高く掲げてみせた。わざとおどけた様子に、皆笑い合った。
迫りくる入眠の時を前に、誰もが胸中に広がる不安を感じていたに違いない。
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