第4章 探索

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 やっぱり、妙だ。  覚醒から2時間半――気になって10分おきに他の乗員の覚醒状況を、バイタルサインの有無で確認するが、誰の登録もない。  つまり、ノアの中で活動再開したのが、僕独りということだ。同じコクーンシステムを使用して、僕だけが特別早く覚醒する――なんてことはあるのだろうか?  とりあえず、あと30分の我慢だ。医療マニュアルの安静時間をクリアすれば、船内を自由に動き回ることができる。仲間の様子を直接見に行くこともできよう。  もう少しだ――落ち着かない心を無理に抑え込み、今後のミッションに思い馳せてみる。  コクーンが正常に作動したのであれば、目的地ルシファー星系到着の一月前には、全員覚醒する。  全員の覚醒が確認できた時点で、地球に恒星間通信を送らなければならない。通信速度は、宇宙船のおよそ300倍なので、予定通りであれば、ルシファーに着く頃には返信が届く予定だ。  ノアは、7個ある地球型惑星の内、第6惑星の公転軌道の内側に到達すると、超光速自動運転が解除される。そこから先は、僕ら操縦士(クルー)のマニュアル操縦となる。  公転軌道の関係で、第5、3、4惑星の順に調査を行っていく。ノアによる今回の有人調査は、最初にして最後の徹底調査だ。  もちろん、ルシファーが発見された直後から、宇宙庁では無人探査機を何度も送り、観測を重ねてきたそうだ。データ上は、移住地として及第点を上回る、理想的な数値を上げてきたらしいが、最終的には実物を観ての判断が不可欠なのである。  人類が永住するのに適した環境にあるかどうか――その見極めは重大だ。僕らの報告によって、一度GOサインが下りれば、もう後戻りはできない。ノア計画発動時から見切り発車的に造船されていた大型移民船が、続々とルシファー目掛けて出航される算段になっている。 『我々人類は、地球を離れる。1人として留まることは許されない。悲しいことだが、人類が活動を停止することは、地球という星に取って最大限の浄化であり、ひいては地球の延命になるであろう』  ノア計画を告げた時、長官は、世界に流す予定のメッセージを僕らに見せてくれた。 『地球を遠く離れても、人類の記憶は遺していく。いつか――遠い未来の人類が、故郷を訪れることが出来るように、いくつかの証拠を刻んで去るだろう』
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