第4章 探索

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 地球上で繁栄を極め、栄華を誇った人類。その痕跡として何を遺すかは、僕らには知らされなかった。  この12年の間に、何らかのメモリアルモニュメントでも建設しているのだろうか。  僕らが帰還する地球は、更に12年後の未来だ。出航前から24年経過している。宇宙のモノサシでは溜め息にも満たない時間だが、ヒトのモノサシでは人生の盛り、いわば真夏のひとシーズンを失うようなものだ。  科学も知識も、すっかり変わってしまっているだろう。親や知人も――エマも、僕の知らない大人の女性になっているに違いない。  ソファーで寝返りを打ち、再び高い天井を見上げる。柔らかいアイボリーの空間に、24年後の彼女の姿を想い描こうとしたが、無理だった。  出会った頃の幼い姿や、再会した訓練期間中の表情は、記憶の中に沢山ストックされている。しかし、まだ見ぬ40代半ばの容貌は、想像力のメモリを振り切っても浮かばずじまいだ。  こんなんじゃ、ミッションを終えて地球に帰還したとしても、僕はエマを見つけられないんじゃないだろうか。 「……見つけて、どうする気だよ」  ノアに乗船することが決まっても、僕は何も約束を残して来なかった。  あんなに魅力的な彼女のことだ。とっくに素敵な伴侶(パートナー)に出会って、ママになっている可能性が高いだろう。 『ムナカタ中尉、安静時間ガ終了シマシタ』  自分の想像に落ち込みかけた時、不意に医療システムが軟禁終了を告げた。 -*-*-*-  ――よし、始めるか。  意を決して、ソファーから降りる。コクーン睡眠用スーツを脱いで、船内活動用の青地に白いラインの入った航宙服に着替える。  部屋を出る前に、もう一度タッチパネルに触れる。覚醒記録に変化はない。  船内の状態――空調、温度、異常反応の有無――各種スキャン結果を確認する。12年近く眠っていた船内に踏み出すのだ。万一の事態を想定して、濃縮酸素の簡易ボンベを携帯する。  身体を緩く動かしてから、1つ頷いて個室のドアを開けた。シューッと僅かな気圧変化が起こり、停滞していた通路の空気が動き始めた。  同時に、省エネモードで仄暗かった通路が、僕の生体信号に反応してフッと明るくなる。
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