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どのくらい呆然としていたのか――マキネン君の変わり果てた姿を前に、長時間床にへたり込んでいた。
……他の乗員の様子も見に行かなくちゃ。
ようやく、次に取るべき行動に思い至ったのは、船内時計で1時間ほど経ってからのことだ。
高々10kg程度の身体が重い。ゆっくり腰を上げて、立ち上がる。そして、もう一度マキネン君を眺めて、合掌した。
遺体を晒したまま放置するのは、さすがに気が引けたので、ベッドからシーツを剥がして、コクーンごと覆う。
白い棺を後に、マキネン君の個室から通路に出た。もう膝は震えていないのに、歩みが覚束ない。
もし覚醒が近いのであれば、やはり船長に報告すべきだろう。通路の壁を伝うようにして、一番奥のスチュワート船長の個室に向かった。
-*-*-*-
「船長、すみません……失礼します」
やはり無断侵入は、気持ち的に抵抗感が強い。聞こえないと分かっているけれど、声を掛けてから室内に入る――。
「わ……何だ?」
意図的に室内の照明設定を固定しているのか、入り口のセンサーが僕の生体信号を感知しているはずなのに、非常灯から切り変わらない。青白い視界の中は、まるで海底に沈んだ難破船内を捜索している気分だ。
船長の個室は、僕ら一般乗員と間取りが異なり、執務室とプライベートルームの2部屋が繋がっている。高級ホテルのセミスイートみたいな造りになっているのだ。
執務室には、ちょっとした打ち合わせが出来るように、大きめのソファーが円卓を囲むように配置されていたはずだ。徐々に馴れてきた視覚情報を、うろ覚えの記憶情報に結び付けていく。
ソファーをぐるり、半周した所で、足を止めた。
コクーンが設置されているプライベートルームを覗く間でもなく、執務室の奥に人影を見つけた。
「……せ、船長?」
船長の執務用デスクに、こちらに背を向けて座っている。だが――様子が妙だ。再び鼓動が不安のリズムで暴れ出す。落ち着け、落ち着け、を口の中で繰り返しながら、慎重に近づいていく。
「せ、ん、ちょ……」
前に頭を落として、眠っているような姿勢――実際、スチュワート船長は眠っていた。永久の目覚めない眠りに就いてしまって、久しいようだ。
「あぁ……」
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