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土気色の乾いた肌、落ち窪んだ眼窩と痩けた頬。退色したプラチナブロンドが、彼女の特徴を僅かに留めているばかりだ。
「マキネンと同じだ」
仲間の不可解な死に、さほど衝撃を受けていない自分に驚く。
感覚が麻痺してしまったのか――こんな事態に馴れたくなんてない。
「船長、失礼します」
呟いて、テーブルに着く。タッチパネルを操作して、航宙日誌にアクセスする。
――ピピッ
妙だ。通常、セキュリティロックが掛かっているはずなのに、ロックは解除されていた。まるで……。
「誰かがアクセスすることを、想定していたみたいだ」
だとすれば、この中には僕が知りたい答えがあるに違いない。更に、内容如何によっては。
「……遺書、かも知れない」
開いた日誌の最終記録の日付を見る――地球出航から3年後、今から8年半前の記録だった。
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『非常事態発生……非常事態発生……』
頭痛が酷い。ガンガンと身体全体を揺さぶるような痛みの波間を掻い潜って、ブート音が聞こえる。ゆっくり開いた視界が赤い――茜色の夕焼けの中にいるようだ。
『非常事態ガ発生シマシタ。システムヲ停止シマス。再活動準備、完了デス』
コクーンの蓋が開く。頭痛は収まってきたが、まだ目の奥が痛む。周囲の明るさにも馴れない。
「……非常、事態だと?」
今が、何時なのか。入眠してから、どのくらい経ったのだろうか。
身体が重い。通常と異なる、急激な覚醒の影響だろう。しばらく深呼吸を続けることにする。
視界に映る範囲では、室内の異常は見られない。
だがコクーンが予定外のシステム停止に至ったことは、揺るぎない事実だ。
『スチュワート船長、再活動後5分経過シマシタ。アト25分以内ニ濃縮栄養液ヲ摂取シテクダサイ』
そうだった。医療システムに急かされて、思い出す。30分以内にエナジーを摂らなければ、低血糖になる。
フゥ……と大きく息を吐き、身を起こす。骨やら関節やら、あちこち軋む音がする。
「うっ……」
地上での訓練中、コクーンシステムを実際に使用した覚醒実験を体験したが、こんな非常事態を想定したものではなかったから、もっとスムーズに再活動できた。
錆び付いた鉛の甲冑を装着した身体を、無理矢理動かしている気分だ。
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