第5章 悪夢

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 土気色の乾いた肌、落ち窪んだ眼窩と痩けた頬。退色したプラチナブロンドが、彼女の特徴を僅かに留めているばかりだ。 「マキネンと同じだ」  仲間(クルー)の不可解な死に、さほど衝撃を受けていない自分に驚く。  感覚が麻痺してしまったのか――こんな事態に馴れたくなんてない。 「船長、失礼します」  呟いて、テーブルに着く。タッチパネルを操作して、航宙日誌(ログ)にアクセスする。  ――ピピッ  妙だ。通常、セキュリティロックが掛かっているはずなのに、ロックは解除されていた。まるで……。 「誰かがアクセスすることを、想定していたみたいだ」  だとすれば、この中には僕が知りたい答えがあるに違いない。更に、内容如何によっては。 「……遺書、かも知れない」  開いた日誌(ログ)の最終記録の日付を見る――地球出航から3年後、今から8年半前の記録だった。 -*-*-*- 『非常事態発生……非常事態発生……』  頭痛が酷い。ガンガンと身体全体を揺さぶるような痛みの波間を掻い潜って、ブート音が聞こえる。ゆっくり開いた視界が赤い――茜色の夕焼けの中にいるようだ。 『非常事態ガ発生シマシタ。システムヲ停止シマス。再活動準備、完了デス』  コクーンの蓋が開く。頭痛は収まってきたが、まだ目の奥が痛む。周囲の明るさにも馴れない。 「……非常、事態だと?」  今が、何時なのか。入眠してから、どのくらい経ったのだろうか。  身体が重い。通常と異なる、急激な覚醒の影響だろう。しばらく深呼吸を続けることにする。  視界に映る範囲では、室内の異常は見られない。  だがコクーンが予定外のシステム停止に至ったことは、揺るぎない事実だ。 『スチュワート船長、再活動後5分経過シマシタ。アト25分以内ニ濃縮栄養液(エナジー)ヲ摂取シテクダサイ』  そうだった。医療システムに急かされて、思い出す。30分以内にエナジーを摂らなければ、低血糖になる。  フゥ……と大きく息を吐き、身を起こす。骨やら関節やら、あちこち軋む音がする。 「うっ……」  地上での訓練中、コクーンシステムを実際に使用した覚醒実験を体験したが、こんな非常事態を想定したものではなかったから、もっとスムーズに再活動できた。  錆び付いた鉛の甲冑を装着した身体を、無理矢理動かしている気分だ。
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