第1章 覚醒

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 ケンタウルス座のアルファ星――アルファ・ケンタウリは、古から地球に最も近い恒星として知られていた。この星を含む三連星の1つ、プロキシマ・ケンタウリを「太陽」とする地球型惑星が、プロキシマbだ。宇宙開拓史におけるマイルストーンとして、初等教育の教科書にも載っている。  その理由は、人類が太陽系外に初めて建設したコロニー「ケイロン」があり、現在では1億人近い居住者を抱えるからである。 「諸君が携わるプロジェクトの目的地は、プロキシマbのおよそ10倍――48光年先にある」 「片道12年の旅ですか」  誰かが呟いた。 「8年前、太陽系に酷似した恒星系が発見されたことは、覚えているかね」 「ルシファーですね」 「そうだ。君は――宇宙鉱物学の」 「ラッセルです。ジョシュア・ラッセル少尉です」  赤毛の青年が会釈した。 「うむ。我々人類は、1世紀後には『ルシファー』に完全移住を果たす」  数人が小さな驚声を上げた。これもまた決定事項なのだろうが、内容のスケールがまるで違う。  『完全移住』――まだ人類が誰も到達していない未知の惑星へ、この母星(マザーアース)を捨てて大移動するというのだ。  沈黙が訪れ、室内を支配した。  再び我々を一通り眺めた長官は、零れた幾本の前髪を掻き上げると、スクリーンに次の映像を映し出した。  それは膨大な観測データを元に創られた恒星系の姿だった。  地球から、およそ48光年。肉眼では捉えられない恒星が、宇宙空間に設置された巨大望遠鏡により発見された。  その恒星が注目を集めたのは、7個の地球型惑星を従えており、この内の第3から第5惑星がハビタブルゾーン内にあると予想されたからだ。すなわち、生物生存可能条件を満たしていると考えられ、第2の太陽系とまで呼ばれるようになった。  『光をもたらす者』の意味を込めて、その恒星は『ルシファー』と名付けられた。 「諸君のミッションは、移住前の最終調査と報告だ」  もう驚く者はいなかった。ただ、選ばれし者に与えられる仕事の意味を、各々が噛み締めていた。
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