第2章 再会

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『再活動準備ガ完了シマシタ。システムヲ解除シマス』  コクーン上蓋の中央辺りで縦に細い光の筋が走り、ゆっくりと左右に開かれていく。  船内の照明はコクーン内より明るいものの、眩しいという程ではない。 「ぅう……ん」  上肢の諸間接を慎重に動かして、それから首回りを緩く捻る。コキ、という微かな骨の軋みが聞こえるも痛みはない。  引き続き慎重に、上体を起こす。地球上の1/6の重力に過ぎないが、血流がザワザワと動き出し、思わず身震いした。 「……やっぱ、伸びるんだ」  両手の爪が、指の第1間接の半分くらいの長さ、少なくとも1.5cmは伸びている。コクーン内では最低限度の代謝しか起こらないよう設定されているが、それでも人体の変化は完全には抑制できない。爪や体毛は伸びるし、細胞も生まれ変わっている。 『ムナカタ中尉、再活動後5分経過シマシタ。アト25分以内ニ濃縮栄養液(エナジー)ヲ摂取シテクダサイ』 「あー、はいはい」  コクーンに搭載されている医療システムの注意喚起(アラート)に答えて、再び伸びをした。  足首や膝、下肢間接も順に動かしてから立ち上がり、漸くコクーン外に出た。  専用スーツを着ただけの足の裏に、硬い床の感触と冷たい温度感覚が伝わる。加えて、体重60kgの1/6、10kg分の僕自身の重みも。 『10分経過シマシタ。アト20分以内ニ濃縮栄養液(エナジー)ヲ摂取シテクダサイ』 「もぅ、分かってるってば」  医療システムが執拗に繰り返すのは、生命維持のためだから、仕方ない。再活動で、身体は急激にエネルギーを消費する。早急に補わなければ、低血糖による昏睡状態に陥り、最悪落命もあり得るのだ。  コクーン外に取り付けられた補給庫から濃縮栄養液の銀色のパックを取り出すと、吸い口を捻って直ぐにくわえた。  ほのかに甘いゲル状のゼリーが喉に流れ込む。トロリと(ぬる)く、決して美味しいものじゃない。  エナジーパックを2つ取り込んで、室内のソファーに身を預ける。低反発素材の黄色いソファーは、重みを受けて、僕の身体のライン通りにジワリと凹んだ。  マニュアルでは、コクーンを出てから3時間は、安静が求められる。脳を含め、ヒトの造りは繊細だ。動き出すには、たっぷりアイドリングが必要なのだ。  ブゥ……ン、という耳鳴りに似た機械音が、規則的に聞こえる。  (ノア)はまだ、超光速自動運転中なのである。
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