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コクーンを備えたこの部屋は、船内で唯一、僕のプライベートな空間だ。
ソファーの後ろには、しっかり備え付けられたテーブルがあり、タッチパネルの操作ボードが付いている。テーブルからやや離れた壁際には、休眠用のベッドがある。ベッドの反対側の壁際にコクーン設備があり、ソファーの正面にドアが見える。あの向こうは、司令室と倉庫を結ぶ船内の通路に繋がっている。
「……みんなも、起きたかなぁ」
テーブルのタッチパネルに手を伸ばす。覚醒したら、1時間以内に生体データを登録しなければならない。スタートボタンに触れて、テーブル上に両手を乗せると、ブルーライトが一定速度で上下左右に移動する。血圧や脈拍といったバイタルサインがスキャンされ、自動入力された。
続けてパネルを操作してみたが、他の乗員達のデータはない。まだ覚醒した人はいないらしい。
地球時間に合わせた船内時間を見ると、今は早朝3時15分。この時刻に覚醒したことがマニュアル通りだったのか――よく思い出せない。
「まだ、寝惚けてるのかな」
呟きながら、タッチパネルを切り替え、日誌を残す。ミッション中は、公私に渡り記録を残さなくてはならない。それが、今後本格的に移住を始めるに当たり、貴重な資料になるからだ。
「あと2時間半か……」
生命維持マニュアルが定めているのだから仕方がないが、ただジッと時間が過ぎ行くのを待つのは、ひたすら退屈だ。
『退屈は最高の拷問だ』と言ったのは誰だったか。まだ苦痛とまでは言わないが、不調でもないのに無為に時間を貪るのは、精神が落ち着かない――。
『リンは、昔っから変わらないわね』
ノア乗員の最終候補者が集められた施設で、思いがけない人物と再会を果たした。
水越・エマ・宙美――エマは、初等部時代の同級生だ。同じMから始まる名字のお陰で、出席順が並んでいたこともあり、あの頃は無邪気に友達だった。
父親の仕事の転勤で、彼女の一家がアメリカに移ったのは、12歳の時だ。
あれ以来、10年振りに再会した彼女は、幼なじみだった頃の面影を微かに残した笑顔で、屈託なく抱き付いてきた。戸惑う僕の心に、甘い違和感をもたらした。
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