第2章 再会

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 コクーンを備えたこの部屋は、船内で唯一、僕のプライベートな空間だ。  ソファーの後ろには、しっかり備え付けられたテーブルがあり、タッチパネルの操作ボードが付いている。テーブルからやや離れた壁際には、休眠用のベッドがある。ベッドの反対側の壁際にコクーン設備があり、ソファーの正面にドアが見える。あの向こうは、司令室(ブリッジ)と倉庫を結ぶ船内の通路に繋がっている。 「……みんなも、起きたかなぁ」  テーブルのタッチパネルに手を伸ばす。覚醒したら、1時間以内に生体データを登録しなければならない。スタートボタンに触れて、テーブル上に両手を乗せると、ブルーライトが一定速度で上下左右に移動する。血圧や脈拍といったバイタルサインがスキャンされ、自動入力された。  続けてパネルを操作してみたが、他の乗員達のデータはない。まだ覚醒した人はいないらしい。  地球時間に合わせた船内時間を見ると、今は早朝3時15分。この時刻に覚醒したことがマニュアル通りだったのか――よく思い出せない。 「まだ、寝惚けてるのかな」  呟きながら、タッチパネルを切り替え、日誌(ログ)を残す。ミッション中は、公私に渡り記録を残さなくてはならない。それが、今後本格的に移住を始めるに当たり、貴重な資料になるからだ。 「あと2時間半か……」  生命維持マニュアルが定めているのだから仕方がないが、ただジッと時間が過ぎ行くのを待つのは、ひたすら退屈だ。  『退屈は最高の拷問だ』と言ったのは誰だったか。まだ苦痛とまでは言わないが、不調でもないのに無為に時間を貪るのは、精神(こころ)が落ち着かない――。 『リンは、昔っから変わらないわね』  ノア乗員の最終候補者が集められた施設で、思いがけない人物と再会を果たした。  水越(みずこし)・エマ・宙美(ひろみ)――エマは、初等部時代の同級生だ。同じMから始まる名字(ファーストネーム)のお陰で、出席順が並んでいたこともあり、あの頃は無邪気に友達だった。  父親の仕事の転勤で、彼女の一家がアメリカに移ったのは、12歳の時だ。  あれ以来、10年振りに再会した彼女は、幼なじみだった頃の面影を微かに残した笑顔で、屈託なく抱き付いてきた。戸惑う僕の心に、甘い違和感をもたらした。
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