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彼女と別れ、私はそのまま家に帰った。けれど、その後どう過ごしたかは分からない。その日を境に、お寺に行く事はなくなった。本当であれば、このどうしようもない心の乱れを正すために、こういう時にこそ仏様に触れ、そのお言葉を聞きたいと思った。けれど、あの場所へ行く勇気は私には無かった。きっと光道様は、私のことを笑顔で迎えてくれるだろう。しかし、今光道様の笑顔を見てしまえば、私は泣いてしまうだろう。閉じ込めていた旦那への想いも溢れ出てしまうだろう。そんなことをしても、迷惑をかけるだけだから。
「山田ー。飯ー」
「うっす」
あれから自分の仕事の量を増やした。一人でいると余計なことを考えてしまう。仕事をしている方が楽だった。
「おーい山田。お前痩せただろー」
「そーですかね」
仲のいい先輩が、私に後ろから抱きつき、服の中に手を入れて腹回りを触りながらそんなことを言う。たしかに、最近食べる量は減ったかもしれない。家に帰っても何もせず風呂に入って眠るだけだから。
「うわ、先輩。それセクハラっすよ。さすがに女子力マイナスの山田さんが相手だとしても失礼っすよ」
「おい新人、お前私にあたり強いな」
「山田と俺の仲だから良いんだよ」
「いや、別に良いですけど。あつい。くすぐったい」
そんなこんなで、先輩と新人と私でまた飯に行くことになった。
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