お風呂事件

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「先に行って、体洗ってるから、5分くらいしたらきて」 「あ、うん」 あ、ほんとに一緒に入るんだ。まだ現実を受け入れられずぼんやりしている俺だったが、奏のその言葉に少しだけ意識が鮮明になる。五分か。五分後奏はどうやって俺のことを待ってるんだろう。もしかして扉開けた瞬間、奏の裸体が目の前にあったりして...はないか、流石に湯船に入ってるか。いやでも俺のタイミングが悪かったらそれもあるかも。立ちながらシャワーを浴びてるかもしれない。お湯が奏の白い肌を伝って下へすっと落ちて行く。お湯のせいで少しもやがかかり、その隙間からシャワーを浴びる伏せ目がちな奏の顔が少し赤みがかっているかも。それはお湯のせいなのか、それとも俺と一緒に入るという恥じらいからくるものなのか。 「いいよー」 「あ、はい」 そんな妄想をしていたら五分なんてすぐだった。奏のあいかわらず色気のない声に、俺はなぜか緊張で掠れた声で返事をした。 「え、暗くない?」 「脱衣所の電気ついてるから大丈夫」 「そう?」 脱衣所に行くと、風呂の電気が付いていないことに気づく。シャワーの音がしないため、俺の杞憂は現実にならないことがすぐにわかった。残念なような安心したような。 「入るよ」 「どうぞ」 少しでも躊躇してしまえば、風呂に入るのが遅くなり奏が上がってしまうかもしれない。それだけは嫌だったので、俺は服を無心で脱ぎ、そう声をかけた。 1つ深呼吸をし、風呂の扉を開ける。 脱衣所の光で薄暗く照らされたそこに、奏は湯船に身を委ね目をつぶっていた。 濡れた髪と肌が普段と違って少しドキッとしたが、奏の視線が俺に向いていない事と、奏の肌が、お湯のおかげで揺らめいてよく見えない事がこうをそうし、意外と落ち着いて浴室に入る事ができた。 俺は無言で髪や体を洗う。なぜかその間も俺は無心だった。 しかし、洗い終わった後に気づいた。 え、この後どうすんの。 「光定さん、おいで」 しかし、奏のその一言でその答えはすぐにでた。
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