お風呂事件

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奏の声に振り向くと、奏が俺のためにスペースを半分開けてくれていた。 「うん」 俺は行くしかないと思い、浴室に手をかけた。 なるべく奏を見ないように、俺の足元を見る。 湯船に入ると、お湯がざばーと溢れる音が風呂に響いた。奏になるべく触れないように、俺も半分のスペースに入ろうとしたのだが、小さい奏と違い上手く入れず手惑っていると、奏の腕が俺に伸びてきた。 「え」 「光定さん、あっちに背中向けて」 奏の言う通り、奏とは反対方向に背中を向ける。すると、奏と向き合うことになるのだが、なぜかそうはならなかった。 「よいしょ」 奏がそういいながら、俺の体の間に入ってきたからだ。 おいおいおい。まじで勘弁してください。 「光定さん、肌すべすべ。さすがイケメン。お坊さん」 奏が意味不明な事を言いながら俺に体を預け、浴室のヘリに乗せた俺の腕を触る。 いや、お前の方が肌すべすべだから。気持ちいいから。ぷにぷにでもち肌だから。勘弁して。 最初は俺に遠慮して、俺に寄りかからなかった奏だが、しばらくして慣れると、背中を俺の胸にぺったりとくっつけてきた。 「疲れたね、光定さん」 「そうだね」 ほんとは疲れなんて今ぶっ飛んでますけど、流石にそうは言えず適当に返事をする。 「腕寒いよ」 そう言いながら、奏は俺の両手をつかみ、湯船の中に入れた。そして、そのまま俺の腕を奏の前でクロスさせた。 「ぎゅってしてくれないの?」 いやいや、どうした奏。そんな事めったに言わないのになぜ今言う。 「ん」 もう緊張やらなにやらで返事もまともに出来なくなった俺だが、奏に言われた通り、ゆっくり奏を俺に抱き寄せる。 「ふふ、お風呂気持ちいーね」 そう嬉しそうに言いながら、俺の腕にぎゅっと抱きつく奏。俺は思わず強く奏を抱きしめてしまった。 奏が俺が抱きやすいように、首を少し傾けてくれたので、俺はその首に俺の顔をすり寄せる。 すると、くすぐったかったのか、ぴくりと体を震わせくすくす笑う奏。あー、だめだ。俺は変なところを触らないように、両手で自分の腕にきつく握っていたのだが、そんな奏に、無意識にその手が緩んでしまった。
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