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「奏」
「っ、なに?」
耳元で奏の名前を呼ぶと、奏がまた体を震わせる。それと同時に漏れた声は、先ほどとは違い、少し熱がこもっていた。
「...元気でた?」
俺はその開いた口をそのまま首筋にかぶりつきたい欲求を抑え、そう言葉にする。すると奏が、心底嬉しそうに
「うん、元気でた」
と小さく返事をした。
「そっか」
「うん」
「奏、可愛い」
「ふふ、光定さん変なの」
俺はそのまま顔を奏の首筋に埋め、ぎゅっとまた奏を抱きしめる。いつもなら可愛いというと怒るのに、笑いながらそう言ってくる奏。俺はもう色々なものが爆発しそうで、胸がきゅーとたまらなく甘く切なくなった。
「さ、上がるか」
奏がそういったため、俺は現実に引き戻され...る予定だったが、俺の奏を抱きしめる腕が全く緩まない。
「ん?光定さんどうしたの?」
いつもと変わらないようにそういう奏。でも、俺はいつものようには戻れそうになかった。
「奏」
「ん?」
「キス、したい」
「......」
俺がそういうと黙る奏。その沈黙に、望んでいたはずの現実に少し引き戻された。
何言ってんだ俺、そんな事言ったって、奏が嫌がるだけなのに。何してんだ。せっかく奏がここまで俺を許してくれたのに。
「じゃ、腕緩めて。目つむって」
俺が自己嫌悪におちいりかけていたその時、思わぬ答えが奏から帰ってきた。
「え」
「お願い、光定さん」
俺から思わず漏れてしまった声に、奏は消え入りそうな声でそう言ってくる。
その声に、奏の意図が読み取れなかったが、その言葉に逆らうことはできず、俺の腕は緩み、奏を解放した。
奏の体が少し離れたと思ったが、体が完全に離れることはなく、奏が俺の方を向いたことがなんとなくわかった。そして、俺の肩に奏の両手が触れる。その手は、少し震えているようだった。
そして、そんなに時間が立たないうちに、俺の額に、暖かいものが触れた。そして、
「光定さん、大好き」
そう耳元で奏の声が聞こえたかと思うと、今度は奏の腕が俺の両肩に回され、俺の体が奏に包まれた。ぎゅっと強く、でもそれは一瞬で離れていった。
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