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奏が出ていってしばらくしてから俺は目を開いた。
見るまでもなく、俺の感情がどうしようもなくなっていることを身体は分かりやすく示していたが、奏がいなくなるまで耐えた事に、俺は自分を褒め称え、尊敬した。
そして、お湯の中に顔を入れ
あああああああ。
と感情を少しでも吐き出せるようにと息を吐き出し、お湯を盛大に震わせた。
そして奏には悪いがどうにもこの状況から感情を抑えることは出来なかったため、手っ取り早く欲を吐き出し、そのあと風呂を出た俺は一度服を着たあと、また風呂へ戻り湯船から何から丁寧に風呂掃除をした。
そのあと風呂を出ると、さすがに奏は布団で寝ていた。その寝顔をもう少し見ていたかったが、風呂掃除のおかげでようやく取り戻した心の平穏を手放す事になるので、俺は素早く荷物をまとめ、奏の家を出た。
*
「光定さん、お風呂」
「ダメ」
「えー」
「ダメ」
「ん、分かった」
そのあと、奏が何度か風呂に誘ってくることがあったが、あの壮絶な戦いを思い出し、俺は頑なにその誘いに首を振った。断るたびに、奏がむくれる姿にまたきゅんと胸が切なくなるが、今の俺にはあれに耐えるのはもう無理だと思い、心を鬼にした。もっと修行が必要だ。
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