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「遅くなってしまってすまないね。ゆいは寝ちゃったみたいだね」
「絵本の読み聞かせは終わりかい?残念だけど、楽しみはまた後にとっておくことにしようかね」
「あら、じゃあ今度は私もご一緒しようかしらね」
「二人ともやめてください」
そのあと、ゆいちゃんを起こさないようにゆっくりお婆さんにゆいちゃんを預け、帰る二人を見送った。隣でお義父さんがなぜかずっとにこにこ笑っていた。
「お義父さん、もしかしてゆいちゃんのお婆さんのことが」
「ふふふ、残念ながら私はまだ妻にぞっこんでねぇ」
お似合いな二人だと思ったのだが、どうやら私の勘は外れてしまったようだ。
「かなちゃんは、お母さんになりたいかい?」
「え?」
「幸せそうだったよ。子供達に囲まれたかなちゃん。いつものかなちゃんも素敵だけど、やっぱり子供達といるときは、また違う素敵なかなちゃんがみられるね」
突然そんなことを言うお義父さんに驚いたが、とても優しい笑顔で言うお義父さんの言葉は、お世辞でいったものではないと感じた。
「ありがとう、ございます」
「そうだ。新しいお茶をゆいちゃんのお婆さんから貰ったんだ。早速いただいてみよう」
「はい」
そのあと、お寺の中に入り、お茶を頂いた。お茶の優しい香りと暖かい温度が、私を和ませてくれた。
「私、お母さんになる自信がないんです」
お茶とお義父さんのおかげか、心にくすぶっていた言葉が、ぽろぽろと緩んだ口からこぼれてきた。
「自分のことも嫌いで、自分の子供になる子は私みたいに不器用で不幸になるんじゃないかなって思ってたんです」
そんな私の弱音も、お義父さんは黙って聞いてくれる。
「でも、お義父さんが教えてくれた沢山のお話。そのお話を聞いて、私って本当に不幸なのかなって思うようになった。こんなに両親や周りの人に沢山の恩を貰って、ここまで生きてきて、光定さんとも一緒になれた」
「お母さんになっても、私は一人じゃない。私の両親、お義父さん、そして光定さんと一緒なら、私お母さんになれるかもしれないって」
ふとお義父さんに目線を向けると、いつもと同じ優しい顔で義父さんは私をみてくれていた。でも、なぜだか少しその目元が潤んでいる気もした。
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