新しい一歩

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「お義父さん、私お母さんになりたいです」 そんなお義父さんをみていたら、私の心の奥に隠れていた言葉が、涙と一緒にするりと口からでていった。 「おいで、かなちゃん」 するとお義父さんが私に向かって両手を広げてくれた。私はすぐにお義父さんの胸に飛び込んだ。お義父さんは私のことを強く抱きしめてくれた。すると、みっともないくらいに、私の目からは涙がとめどなく流れ出した。 「かなちゃんが初めてうちに来たとき、私はかなちゃんに怒ったよね」 私を抱きしめながら、お義父さんが懐かしそうに語り出した。あの時の私は、簡単に死にたいと口にする事も多くて、どうやって今まで生きて来たのかも分からないくらい、どうしようもなかった。そんな私にお義父さんは怒った。自殺したいと願う事は、「どうしてこんな辛い世界にわたしを生んだの」と親を恨む事と同じ。無限の恩を子供に注いでくれる親を殺す、恨む事は仏教では最も許されない罪としている。貴方はそんな大罪を犯してまで簡単に自分のことを殺したいと願うのかと、怒られた日の事は忘れない。自分の命を自分だけのものだと勘違いしていた自分を恥じた。その日をきっかけに、私は自分を変えようと前向きに生きる事が出来るようになった。 「あの時の子が、ここまで自分自身と向き合ってくれるようになった。恩と縁を大切にしてくれるようになった。私はとても嬉しいよ。かなちゃん、光定を選んでくれてありがとう。そして、私の家族になってくれて、本当にありがとう」 潤んだ声でそういいながら、私をきつく抱きしめてくれるお義父さん。私の方こそ、あの時のどうしょうもない私をここまで変えてくれて、仏教と光定さんとの縁を繋いでくれたお義父さんには感謝しきれない。私の最大の恩師だ。でも、感謝の気持ちが大きすぎて言葉に出来ないので、私はただただお義父さんを抱きしめ返すことしか出来なかった。
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