第1章

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「おかえり」 「...ただいま」 家に帰るとなぜか鍵が開いており、中に入ると愛しの旦那様がいた。 「どーしたの?」 「ん?最近来てないなーと思って」 「来るなら練絡くれれば良かったのに」 「電話したよ?」 アイフォンを確認すると、たしかに一件旦那から連絡が入っていた。 「ごめん、気づかなかった」 「ふふ、いいよ。突然来た俺も悪い」 旦那はイケメンなだけでなく、坊さんになるだけあって優しい。たまに本当に仏になるんじゃないかと思う。 「それより...」 私はそんなことを思いながら靴を脱ぎ部屋に入ろうとしたら、目の前に旦那が立っていた。そして、なぜだか私の髪や服の匂いを嗅ぎだした。 「お酒の匂い」 「あー、飲んでないよ。職場の先輩に誘われて居酒屋で食べてきただけ」 「そっか。というか、また外食?何か作ろうと思って冷蔵庫見たけど、何も入ってないし。またお弁当ですませてたんでしょ」 「あー、ごめん」 「別に怒ってないよ。ただ、俺が勝手に心配しただけ」 そういうと、旦那は部屋の奥へ入っていった。もちろん私も仏教徒なわけで、旦那様にとっても、嫁の私が仏様の教えを守っているのか気になるのだろう。 というか、話しは変わるが、私は旦那が私の前では自分の事を「俺」というのが好きだったりする。お坊さんをしている時の旦那の一人称は「私」だが、私といるときは違う。それだけで、旦那が私に少し気を許してくれている気がして嬉しい。 「あ、というか服」 「あーごめん、勝手に借りちゃったよスウェット。奏は小さいのに大きい服着るのが好きで良かったよ。俺が着てもちょうどいいよ」 「ん」 その服、しばらく洗わないでおこ。そういえばいい忘れていたが、旦那は私のことを好きではないが、私は旦那が好きだ。仏教を学ぶため、旦那の実家に通うようになってから、意識しなくても旦那の存在には気づいていた。綺麗な顔をしているくせに、優しいものいいで、住職の仕事も熱心に手伝っている。私は一度も自分が綺麗であったことがなく、優しくもなく、仏様にすがりたくなるほど不安定な人間だったから、その当時は旦那のことを妬んでいた。しかし、いつのまにかその妬みは憧れに変わっていた。
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