昔のはなし

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山田さんは台風の後も、風邪をひいた様子はなく、変わらずうちに通っていた。どうやらあれは、俺の杞憂だったようだ。良かった。 「光道様、ありがとうございました」 そしてある日、俺が掃除をしていると、父さんと話す山田さんの姿が視界に入った。そしてなんと、そこには父さんに笑いかける山田さんがいた。え、俺、山田さんが笑うの初めて見た。 「父さん、今日山田さん笑ってなかった?」 「山田...ああ、かなちゃんのことかい?ああ、珍しく笑ってたねぇ。かなちゃんはだいたい無表情だからね。もっと笑いなさいって言ってるんだけどねぇ」 「そうなんだ」 山田さんがうちに来てから、半年ぐらいたったと思う。なぜ山田さんがうちに来るのか、その理由を俺は知らない。山田さんは基本無表情。たまに父さんと話をする時に興奮しがちに怒ったり泣いたりする所を見たこともあるが、笑った所は見たことがなかった。その山田さんが笑っていた。山田さんが笑った理由は分からないが、もしかしたら、それぐらい父さんが良い話をしたのかもしれない。それとも、笑えるくらい山田さんの気持ちに余裕ができたのかもしれない。そう考えると、あの山田さんを笑わせた父さん、そして、自分を変えるまで仏教を学んだ山田さんはすごいなぁと、純粋に思った。 俺はいまだに、ここを継ぐか、普通に社会人として外で働くか決めかねている。昔から修練に参加していたが、それは俺にとって当たり前のことで、山田さんみたいに真正面から仏教と、そして自分自信と向き合ってこなかった。だから、そんな山田さんの姿は俺にとって新鮮で、かっこよかった。俺も、もうちょっと真面目に修練頑張ってみようかな。
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