昔のはなし

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「父さん、今日山田さん泣いていたみたいだけど。何かあった?」 「ん?どうしたんだ光定。信徒さんについて聞いてくるなんて珍しいね」 「あ、ごめん。皆父さんと話に来てるのにその話を聞こうだなんて失礼だよね」 「謝らなくてもいいよ。まぁ、かなちゃんと話した内容は言えないけど、大丈夫。あの涙は悪い涙じゃないから」 「そ、そっか。ありがとう父さん」 「父さん、来週の修練に参加したいんだけど、いいかな?」 「ああ、勿論いいよ。けど、遠いし期間が長いが大丈夫かい?」 「大丈夫」 「そうかい。光定が決めたなら父さんは止めないよ」 「ありがとう父さん」 「光定、明日から修練だというのに、なんだか顔が冴えないねぇ」 「え?そ、そんな事ないよ。頑張って来るよ」 「そうかい?そう言えば、かなちゃんも最近仕事で重要なことを任されたみたいで、ここ一週間くらいうちに来てないけど、頑張っているみたいだよ」 「そうだったんだ。良かった。調子が悪い訳じゃないんだね」 「ああ、大丈夫だよ」 「父さん、俺頑張ってくるね」 「ああ、行ってらっしゃい」 「行ってきます」 最近、光定が変わった気がする。今まであまり修練に集中出来ていなかったが、最近は自ら修練に出るようになり、昔は興味も示さなかった信徒さん達のことも気にするようになった。 もしかしたら、光定が変わった原因はかなちゃんにあるのかもしれない。そう考えると、最近、光定がかなちゃんの存在を気にするのも納得がいく。 光定にとって、小さい頃から日常に仏様の教えがある生活が当たり前だった。うちにくる信徒さん達の多くはご老人で、光定のように仏様の教えがある生活が当たり前の人たちばかり。だからこそ、教えを学びたいと前のめりになって説法を聞きにくるかなちゃんの存在は、光定にとって刺激になったのだろう。 私は、光定がどの道を選ぶかは、光定が決めればいいと思っている。でも、最近の光定は、迷いが少なく、生き生きしているように見える。光定がいい縁に巡り会えて良かった。私は心の底からそう思った。
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