昔のはなし

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「光定。お前恋人は今いるのか?」 「ん、いないよ」 「そうか。だったらお見合いをしてみないか?」 「え、見合い?」 「ああ、お前が良かったらな。私の知り合いにいい子がいるんだ」 山田さんがうちに来なくなって一か月ほどたった。いつも通りうちを手伝った後夕食を食べていると、父さんが急にそんなことを言ってきた。見合いを父さんから勧められたのは初めてだった。本音を言うと、別に見合いに興味はなかった。むしろ今は修練に集中したいと思っていたため、断りたかったが、最近父さんの身体の調子が良くない事を、俺は知っていた。 「いいよ」 「本当かい?相手はね」 「あー、別にいいよ。どうせ一回会うんでしょ?」 「ああ、来週会う予定なんだ」 「分かった。来週予定空けとくな」 「ありがとう」 父さんは何も言わないが、俺のことが心配なんだろう。父さんを安心させるためにも、俺は見合いの話を受けた。父さんが選んだ人だ、いい人に決まってる。それにもともと、俺は人にあまり執着しない。他人との関係に永遠はない。いづれ裏切られたたり、死別したりして離れなければならない未来が待っているのに、周りみたいに人に執着する理由が、俺には分からなかった。というか、そんな未来が待っているのに、執着するまで相手を想ってしまう事が、俺には怖かったんだと思う。それで俺は基本来るもの拒まず、去る者追わずで、色んな女性と付き合ってきた。だから、今回も、見合い相手が誰でも問題はなかった。...はずなだが、なぜか胸の奥で、何かがつっかえているような気がした。
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