昔のはなし

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「え、父さん。あの人もしかして」 「うん、かなちゃんだよ。言おうと思ったんだけど、光定が言わなくていいって言うから」 いやいや、そりゃ言わなくていいとはいったけど、まさか相手がうちに来てる信徒さんだとは思わないだろ。 見合いの日はあっという間に来て、席に座っている人をみると、そこにはあの山田さんが座っていた。久しぶりに見る山田さんは、普段うちに来る時と違い、綺麗な女性らしい服を着ていた。なんだか、初めてあった時以上に緊張した。 「この度は息子のために出向いてくださりありがとうございます」 「いいえ、こにらこそ」 そして、あっという間に見合いは始まった。山田さんは俺をちらっと見た後、少し会釈をした。そのあとはいつもの山田さんの通り、視線を合わせてはくれなかった。山田さんのお母さんは、山田さんとは違い明るくたくさん話をする人だった。それとは正反対に山田さんは静かに座り、外の景色を見ている。 「あんたもっと愛想良くしなさいよ。こんなカッコいい人が旦那さんになってくれるかもしれないのよ?ちょっと可愛く微笑んでみたりできないの?」 「むり」 「女は愛嬌よ!あんた可愛くないんだからちょっとは努力しなさいよ」 「しょうがないよ。お母さんの娘だから」 「なによ!母さんはあんたぐらいの歳の頃はモテモテだったのよ!例えば高校生の時にはね...」 元気なお母さんにも素っ気なく返す山田さん。綺麗な格好をしている山田さんも、やっぱりいつもの山田さんで、むしろお母さんがいるからか、普段よりリラックスしているように感じる。そんな山田さんと元気なお母さんを見ていたら、俺の緊張も少しずつほぐれ、いつのまにか笑っていた。その後も山田さんのお母さんのマシンガントークは続き、お見合いは終わった。
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