昔のはなし

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「かなちゃん、これからは私の事をお義父さんと呼んでね」 「これから娘の事をよろしくお願いします」 「こちらこそお願いします」 「では、結納の日なんですが、うちであげませんか?」 「あら、仏前式なんて素敵ですね」 なぜこうなってしまったんだろう。 混乱している私を置いて、光道様とうちのお母さんは笑顔で話をしている。 私がお寺に通うのを控えてから、私は調子が良くなかった。仕事にも集中出来ず、この間は久しぶりに職場の先輩に怒られた。このままではいけないと思いながらも、どうも彼の事を考えるとお寺には行きたくないし、かといって行かなくても調子は出ないしと、自分のはっきりしない心に苦しんでいた。そんな時に、光道様から連絡がきた。そして、彼とのお見合いを勧められた。最初は冗談かと思ったが、光道様の話を聞いているうちに、冗談では無かったのだと分かった。それに、お見合いの候補は私以外にもいるらしい。どうせ意気地のない私は、自分から彼に近づくことも離れることも出来ない。それならば、今回のお見合いの話は丁度良いと思った。他にも候補がいるなら、彼があまり話した事のない私を選ぶ確率は低い。この中途半端な気持ちに蹴りをつけるためにも、お見合の話を受けようと思った。 そして、形だけのお見合いをし、少しスッキリした私は仕事の調子も取り戻し始めていた。そんな時に再び光道様から入った連絡。なんと、私と彼の結婚が決まったという内容だった。 「まさかあんたが結婚するなんて。あんたみたいな不器用な子を貰ってくれるなんて本当に仏様みたいな人ね」 「うん」 「ねー、あんたちゃんと光道さんの話し聞いてた?」 「うん」 「もう、この子ったら」 私はこの結果を想像もしていなかったため、彼と私が結婚する事実を受け入れられずにいた。彼との結婚生活は全くイメージ出来なかった。喜んでいいのかどうすればいいのか私には分からず、二人の間で私はぼーっとしていた。 と、そんなこんなで。未だ気持ちの整理はつかないまま、式の当日。お互いの親族のみの小さな式になった。
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