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「奏」
「え?」
「私の名前、奏。楽器を奏でるの、かなで」
「...かな、で?」
「うん」
「奏」
「うん」
なんか、むず痒い。
彼に、私の名前を呼ぶように言ったのは私だけれど、彼が、丁寧に優しく私の名前を呼んでくれるものだから、なんだかむず痒く、恥ずかしくなった。
「俺は、光定」
「うん」
「...あれ?呼んでくれないの?」
「...」
そう言いながら、彼は私の顔を覗き込もうとしたため、私は逆の方向を向いた。
「ふふ、奏さんって、なんか猫みたいだよね」
そんな私に気分を悪くする事なく、彼はそう言ってくれる。この人天使か。いや、お坊さんだった。
「旦那、様」
「え?」
けれど、私には名前を呼ぶ勇気がなくて、そう言ったのだが、言ってからこっちのほうが恥ずかしいことに気づいた。けど、言ってしまった言葉はとりけせないので、私は赤くなる顔を見せないために下を向き続けるしかなかった。
「俺、今日から、奏さんの、旦那様になるのか」
すると少ししてから光定さんがそんな事を言った。その言葉に、私はこれ以上ないくらい顔に熱が集まるのを感じた。
「いて」
私は思わず光定さんのお腹あたりを殴ってしまった。
「は、恥ずかしい事、言わないで」
煩い心臓を抑えて顔を真っ赤にしながらそういう私は、絶対変だ。
「ご、ごめんね」
そんな私がよっぽど可笑しかったんだ。光定さんが笑いをこらえてながら震えた声でそう謝ってきた。
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