昔のはなし

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山田さん、いや、奏さんとの式の後。俺は母さんの仏壇の前でぼーっとしていた。 俺、奏さんと結婚したんだ。まだ、うまく実感は湧いていない。俺は結婚にあまり期待をしていなかったから、結婚式も普通にして、特に特別な感情を抱くこともなく、終わると思っていたのに。 「なんか、結婚式って凄いね母さん」 「そうかい。それは良かった」 そんな俺の母さんへの言葉に答えてくれたのは、もちろん母さんではなく、父さんだった。 「お疲れ光定」 「お、いや。父さんこそ、準備から何までありがとう」 「良いんだよ。私がやりたくてやったことだ」 そう言いながら、父さんは俺の隣に座った。 「かなちゃん、綺麗だったね」 「うん、奏さん、可愛かったね。奏さん小さいから、白無垢に着られてて、最初見たときなんて、なんか子供みたいにむくれてたんだ。式の最中は凄く緊張してて、でも、俺と一回目があった時、少しほっとしてくれたみたいだった。式が終わるまで、一生懸命、手が赤くなるまで念珠を持ってくれていたよ」 「ふふふ」 「え、何父さん」 「いや、何でもないよ」 母さんに式の事を話そうと思って、色々話していると、父さんが急に笑い出した。なんでそんなに笑うのか分からなかったが、心がなんか暖かくて満たされていた俺は、笑った父さんを責めることも忘れていた。 本当は、式の前にリハーサルをした時に、奏さんが俺の事を旦那様と呼んでくれた事。その後、奏さんが照れ隠しに俺を殴ってきた事とか、俺の知らない奏さんと過ごす時間が嬉しくて、母さんに話したい事は沢山あったけど、それを父さんに教えるのは何だかもったいなくて話すのをやめた。ただでさえ、父さんは俺の知らない奏さんを沢山知っているんだ。母さんには、父さんがいない時に教えてあげよう。
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