昔のはなし

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俺は、式で受け取った念珠に目を向けた。これが、俺と奏さんの前世と現世、そして来世までの繋がりを誓った証。移り変わるのが当たり前のこの世界、どんなに大切にしている繋がりでも裏切られるのが当たり前のこの世界で、ずっとつながっていられるなんて、すごく綺麗事だと思う。けど、その証が今の俺には愛おしく思えた。 そして、ふと父さんの方を見ると、俺と同じ念珠を手にしているのが見えた。 「あれ、その念珠。俺と同じ」 「そりゃそうさ。父さんと母さんもここで式を挙げたんだから」 「...そっか」 「母さんの前にいる時は、やっぱりこれを握っていたくてね。もう、私の癖みたいなものだよ」 「...言われて見たら、昔からそうだったかも」 「父さんは母さん一筋だからねぇ」 「うん、知ってる」 俺と奏さんは結婚をしただけで、何もお互い知らないし、側からみたら始まってもいない関係だけど、そんな父さんと母さんを見て、これからどうなるかは分からないけれど、俺もこの念珠を離さないでいたいなと思った。俺は、念珠をもう一度強く握りしめた。 「父さん、俺、ここ継ぐよ」 「え?」 「母さんと父さんの前で言いたかったんだ」 「光定、ありがとう」 俺がそう言うと、父さんは笑いながら泣いていた。きっと、母さんもそんな顔をしてくれていると思う。 * 「遥さん、実は光定にいい縁があったんだよ。その子はかなちゃんっていうんだけどね、その子のお陰で、光定の迷いが小さくなってきたみたいだ」 「遥さん、大変だ。二人の縁が途切れそうなんだ。お互い鈍感で不器用な子達だからね、どうしたものかね」 「遥さん、私はついにお節介をしてしまったよ。でも、私は二人の縁を一時的に繋ぎ止めただけ。これからの二人の縁は、二人にしか繋ぎ続けることは出来ないからね。でも、私はきっと大丈夫だと思うよ。ね、遥さん」
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