はじめてのお泊り

1/6

825人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ

はじめてのお泊り

「じゃあ、うちに泊まりますか?」 「...え?」 奏さんと結婚してから、数ヶ月が経った。だけど、俺たちの関係は変わらなかった。奏さんには奏さんの生活リズムがあり、俺は副住職になったばかりで、父さんから新しい仕事を教わっていたため、忙しい日々を送っていた。そのため、奏さんに別居を提案された時、俺はそれを受け入れた。それに、お互い良く知り合っての結婚ではないため、そんな二人が突然一緒に暮らしても、上手く行かないと思った。 「環境が変われば集中出来ると思ったんですけど」 「そ、それは。た、たしかにそうですけど...」 「あーたしかに、場所が変わると集中出来るかもね」 今度、俺の事を昔から可愛がってくれていた信徒さんの一人の葬式で、俺が説法を任されることになった。...のだが、お葬式の説法となると、普段している説法とは違うし、また、俺自身思い入れのある人への説法となるため、どんな内容にしようか、とても悩んでいた。でも、なかなか考えはまとまらず、日にちが近づくばかりで俺は焦っていた。あまりに悩みすぎて、久しぶりに3人で夕食を食べている時に、ぽろっと父さんに相談した。そうしたら奏さんがそんな突拍子も無い事を言ってきた。それに父さんも便乗する始末だし。 さっきも言った通り、俺らの関係は結婚してからも何も変わっていない。もちろんデートなんてした事ないし、奏さんの家に遊びに行った事もない。それなのに急に奏さんの家に泊まるだなんて...と思ったのだが。 「じゃあ、明日の夜。迎えにきますね」 「あ、ついでにまた夕ご飯食べてってよかなちゃん」 「いいんですか光道様」 「あれ?かなちゃん。私の事そう呼ぶんだっけ?」 「あ...。お、お義父さん」 「ふふふ、かなちゃんの好きな肉じゃが作って待ってるね」 「ありがとうございます」 という感じで、俺が一人でもんもんと考えていると明日のお泊まりが決まってしまっていた。そして父さん。そのやり取りはなんだ。奏さんの旦那は俺なんだけど。奏さんも恥ずかしそうに赤くなって微笑んでるんじゃないよ。あー、もう。なんでこの二人、お互いマイペースなのにこんなに息ぴったりなんだろう。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

825人が本棚に入れています
本棚に追加