ゆめ

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ゆめ

「奏、今日の俺の説法どうだった?」 「ん、良かった」 「ほんとに?」 「うん」 「父さんよりも?」 「...それは比べるものじゃないでしょ」 「そうかもしれないけど、でもまだ不安なんだ。住職が父さんから俺に変わって、まだ日が経ってないから、やっぱりまだ俺には早かったんじゃないかって」 「...これからだよ」 「え?」 「これから、光定さんは、光定さんにしかなれないお坊さんになってけばいいよ」 「...そうかな」 「うん」 「ありがとう、奏」 「いいえ」 やっぱり奏は凄い。奏の少ない言葉は、俺に前を向く元気を与えてくれる。半年の副住職の期間を終え、住職になって数ヶ月。結婚して一年くらいになる。けれど、俺と奏の関係は変わらない。奏は結婚してからも、やっぱり父さんが一番で、うちに来ても、多く話しをするのは父さん。けど、今はこうやって俺の名前を呼んでくれるし、それに、俺が声をかければ、真剣に考えて返事をくれる。それだけで、俺は嬉しかった。それに、たまに見せてくれる奏の素直な言動に、俺は弱かった。普段あんなに愛想がないのに、たまになんであんな可愛い事をするのか、本当にやめてほしい。心臓に悪い。 そんな奏と過ごしているうちに、俺の奏への想いは大きくなっていった。あんなに怖がっていたのに、俺は奏に対する大きくなる想いを止められなかった。みんな、いつか離れなければならないと分かっていながらも、大切に想う気持ちが止められないんだ。それを、奏と過ごす中で学んだ。 いつかは、奏と離れる時が来るのだろう。だって、奏は俺と同じ気持ちでは無いのだから。
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