ゆめ

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「...はあ、行かないと」 「行ってらっしゃい」 一瞬の沈黙を、光定さんの大きなため息が破った。 「奏、泣いてる。ごめん」 「大丈夫。嫌で泣いたわけじゃない。ただちょっと、なんか、恥ずかしかったというか...えっと...」 そして光定さんは私の涙に気づいてしまったようで、涙を指でぬぐいながら申し訳なさそうにそういってきた。そんな光定さんを安心させようと声をかけようとするのだが、恥ずかしくて、なかなか言葉が出てこない。そのあと、また光定さんが私を抱きしめ、ため息をついた。 「やめて奏。もう可愛い事しないで。お寺にいけなくなる。父さんに怒られる」 光定さんが、真面目な声でそんなことを言うから、なんだか面白くて笑ってしまった。 「怒ったお義父さん見たことない」 「俺はあるよ。もう、言葉には出来ないくらい恐ろしい」 「そうなんだ」 「でも安心して、父さんは絶対奏の事は怒らないよ」 「そうかな?」 「うん。父さんは奏の事を俺以上に可愛がってるから。というか、そろそろ行かないと流石にやばいな」 少しそんなことを話していると、さっきまでの空気はどこに行ったのやら、いつもの感じに戻っていた。光定さんは素早く起き上がって、帰る準備を始めた。 私はまだ寝ぼけているのか、光定さんの温もりが離れのが寂しくて、光定さんの使っていたタオルを引き寄せてぎゅっと抱きしめた。 「...奏、やめてって言ったのに。あー、もう...。今日も来ていい?」 「どうぞ」 すると、準備が出来た光定さんがまたため息をつきながら、私の頭を撫でてくれた。その手が気持ちよくて、タオルの光定さんの匂いもいい匂いで、私は夢見心地だった。 「行ってらっしゃい」 「行ってきます」 そして光定さんが家を出て行った後も、ふわふわと幸せな気持ちのまま、私は二度寝をしてしまった。そのあと先輩から電話がきて、とても怒られた。
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