それぞれの想い

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「あかり、パパは今お仕事してるから私の方へおいで」 「やー!ぱぱがいい!」 「ふふ、いいよ。もう少し時間あるから」 「...そう言いながら、光定さんがあかりと一緒にいたいだけでしょ」 「まぁね。あ、でも勿論ママとも一緒にいたいよ」 「うるさい、調子に乗らないで」 「はは、ごめんなさい。あ、そういえば、先程何か私におっしゃいませんでしたか?」 「あ、いえ。私は何も。では私はこれで」 この3人のやり取りを見て、私の短かった恋心は粉々に砕け散った。光定様が奏と呼ぶ女性は、そんなに魅力的な人ではないのに、光定様がその人に向ける眼差しは、私達に向けるものとは全く違っていた。私が入る余地なんてないと思った。 「そうですか?では、また明日」 「え」 「あれ、吉野さん、最近毎日来て下さるから、明日も来てくれるかと...。もしかして明日ご用事でも?」 さっきまでの幸せな気持ちとは真逆の気持ちで、その場を後にしようとした時、光定様にそう声をかけられた。まさか、光定様が私の事を認識してくれていたなんて、しかも名前を覚えてくれていたなんて...。 「明日も、来ます」 「またねー!」 「またいつでもいらしてください」 光定様に感じていた感情は恋心というより憧れのようなものだった...と思おうとしても、やはり仲良しそうな3人の姿を見るのは辛い。だけど、私の今の心の拠り所の光定様に会え無くなるのは、もっと辛い。だから、私はつい、また来ると答えてしまった。私は嬉しい気持ちと悲しい気持ちが混ざった変な感じのまま、お寺を後にした。
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