それぞれの想い

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「ぱぱ、またねぇ!」 「うん、またねあかり」 そして、幸せそうにあかりを送り出してくれる光定さん。さっきまで嫉妬でもやもやしていた心が、いつのまにか小さくなっていた。そして、光定さんに背を向けて歩き出そうとしたのだが、後ろから何かに引っ張られた。こんな事をするのは一人しかいないと思い、振り返ろうと思ったのだが、その前に耳元に光定さんの気配を感じた。 「奏は、応援してくれないの?」 そして、あかりに聞こえない小さな声で、光定さんがそう囁いてきた。あかりの前だと、光定さんは私の事をママと呼ぶが、こうやって私と二人の時は奏と呼んでくれる。昔は当たり前だった呼び方が、あかりが生まれてからは当たり前じゃなくなった。そのお陰で、最近その名前で呼ばれるたびに私の心臓がうるさくなって、顔に熱が集まる。それがなんだか悔しくて、私は急いで後ろを振り向き、光定さんの耳元に口を寄せた。 「お仕事頑張って、私の旦那様」 そういうと、光定さんは目を見開いて固まった。そのあと、じわじわ顔が赤くなって、そのまま片手で手を覆ってしまった。 「なにそれ、反則。どうしよう、今奏の事抱きしめたい」 「今はお坊さんなんだから煩悩を抑えて下さい」 「...はい。頑張ります」 その後、急に赤くなって顔を隠してしまったパパを不思議がっていたあかりをつれ、私はお寺を後にした。
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