可愛いもの

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可愛いもの

「奏、なに見てるの」 「うわ」 風呂上り、奏がアイフォンを見ながらニヤニヤしていた。なにをそんな楽しそうに見ているのかと思って、奏に後ろから話しかける。すると、奏は驚いてアイフォンから視線を外し俺を見る。それが少し上目遣いになって、俺の胸がきゅんと少し苦しくなった。 「ラッコ」 「らっこ?」 「うん、最近ラッコにはまってて。ラッコってあざとくてめっちゃ可愛いの知ってる?あのね...」 奏はそう言うと、ラッコの可愛さについて俺に必死に話し始めた。普段なら俺が奏の近くに座ろうものなら少し距離をとるのに、むしろ奏の方から俺に寄ってきて、おきに入りの写真や動画を見せてくる。俺が「可愛いね」と同意すると、奏は喜んであまり見ないとびきりの笑顔で俺の肩を叩きながら「でしょでしょ」と言って喜ぶ。 「あとね、寝るときとか、水族館のラッコは手を繋いで寝るんだって。可愛い。あのもふもふの手でお互いぎゅって握りながら寝るんだよ?可愛い」 「うん、そうだね」 奏も大好きなラッコのことを考えているため幸せそうだが、俺もそんな奏を見られて幸せだった。もう胸がきゅんきゅん鳴りっぱなし。でも、奏にそれが気づかれたら、奏はすぐ俺のそばから離れてしまうだろうから、我慢。奏は猫みたいな所がある。自分から寄ってくるのは大丈夫だが、人に寄って来られるのは苦手だ。 「ラッコってどこにいるかな。南極?」 「そんな遠い所行かなくても、水族館とかにいるんじゃない?こんど行く?」 「行かない。だって、水族館なんて典型的な恋人のデートスポットじゃん。でも、ラッコは見たい。んー、どうしたもんか」 残念。さらっとデートに誘ったつもりだったが、奏はそれがお気に召さなかったようだ。俺らは夫婦だけど、デートなんて一度もした事がない。むしろ、奏と二人でどこかに出かけた事なんてない。恋人と遊園地に行ったり夜景を見てみたいなんて、今更そんなに思わないけど、でもラッコの写真を見ただけで喜ぶ奏が実際に間近で見たらどれだけ喜ぶんだろうと思った。ただの俺の下心。 「ねー、光定さん」 「え?ん、なに?」 そんなことを思いながらぼーっとしていると、奏が隣の俺に寄りかかってきた。あ、髪いい匂いする。
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