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変わらない彼女に対する僕はといえば、あの頃から背丈が少し伸びたことを除けば、成長というより老いたと言っていい。
僕が僕自身に課した使命は、彼女を忘れないこと。
そして、彼女を覚えている唯一の人間である僕を、一分一秒でも長く生かすことだ。
そのための体調管理には余念がなかったから、子どももいないし、同世代よりは多少若作りかもしれない。
それでも頭には白い色が少しずつ混じり始め、顔にはシワが刻まれ、手元の文字だけがようよう見づらくなってきた。
スズ姉のいない日常は変わらず色褪せたまま流れていき、僕は大学生になり、社会人になった。
あの頃のまま時を止めた君に差し向かうのは、もう高校生の僕ではないのだ。
それは少し寂しくはあったが、それよりもずっと喜ばしいことだ。
君があの日、言いたくても言えなかった『忘れないで』を、それだけの年月をかけて果たしてあげることができたのだから。
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