思い出の眠る場所

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 傾き始めた午後の日差しが長く遠く屋内に差し込み、塵すらキラキラと輝かせて、それが妙に郷愁を誘う。  木造の校舎は、5年前、市街部に比べ加速度的に進んだ少子化で、遂にその役目を終えたという。 「懐かしいだろ?」  地元に残った友人はほんのひと握りで、そのうちの一人が、廃校となった母校の管理を任されていた。  体型は歳相応に丸くなったが、幼い頃から変わらないおっとりとした調子で、友人は言う。 「お前、全然こっちに帰って来ないんだもんなぁ。親戚の悔やみくらいだろ?それも大して長居もしないでさっさと帰るしなぁ」  そこを突かれると痛い。  地元の友人たちからは、盆や正月の度、今年こそは帰省しないのかと何度となく誘いもあったが、様々理由を並べるばかりで、高校卒業以来、実家に帰ることはほぼなかった。 「不義理にして悪かったよ」 「まぁ…都会は忙しそうだし。しかたないんだろうなぁ」 「そういうことにしておいてくれると、助かる」  苦笑して謝るほかはない。  その殊勝な態度に溜飲を下げたらしい友人は、少しだけ非難のトーンを落としてくれた。
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