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行列の主役は、白無垢に角隠しの、古式ゆかしい花嫁衣装を纏う嫁御役で、それは必ず成人前の女性だった。
それ以外は、男女は問わないが必ず大人で、揃って狐面で顔を隠し、祭事の間は一言も口をきいてはならないと決められていた。
行列の終点は参道を山の中腹まで進んだ先、古めかしい石造りの奥鳥居。
奥鳥居までの道は、記憶にある過去の式年祭のそれよりも賑々しい人出だ。
その中を、しゃらん、しゃらりらと、無言のままでひた進む。
今ならわかる。
これは、山の神様に子どもを差し出す、生贄の儀式だ。
それも、連れて行く子どもを最後に選ぶのは神様なのだ。
そうでなければ、嫁御役の少女以外も、子どもには面が与えられない――顔を晒す理由がつかない。
大人が生贄の候補を立て、すべての山の子らの中から、神様が気に入った子どもを選ぶのだ。
返して、大人が顔を隠すのも、声を決して出してはならないのも、神の使いのふりをして、子どもと共に連れ去られないため。
それが長い長い歳月の中で根源が忘れ去られ、ただ祭事の一つとして形式が残されたに違いないのだと、千尋は知っている。
(そうだろう、スズ姉)
行列が終着に近づくにつれ、増えていく人だかり。
向かう先で嫁御役を待つ宮司の――いや、そのさらに背後、いかにも古びた奥鳥居の傍には、随人の大人たちと同じ装束の、狐面で素顔を隠す少女がいた。
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