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嫁御役を奥鳥居で宮司に引き渡し、来た道を入鳥居まで黙々と下がれば、大人たちは晴れて御役御免だ。
僕のように地元を離れたものの氏子として行列に加わった者もちらほらいるようで――けれど彼らは今の青年団の面々と同世代、顔見知りは少ない。
挨拶もそこそこに、僕は、ゆうに10は歳が離れていそうな後輩たちの邪魔をしないよう、その場を静かに離れた。
皆、じきに本宮で祭事を終える嫁御役をねぎらいに、また各々奥鳥居へ足を向けるのだと知っている。
だから僕は、視界を狭める面を取り払うと、敢えてそちらへは向かわずに、誰もいない、いつものとおり静まり返る境内の枝道を、鈴飾りの音を連れて気の向くままに進むのだった。
「お祭りの日に面もつけず歩いていたら、神様に攫われてしまうよ」
そこへ、来た道から投げかけられたのは、清けき少女の声。
「――もう、だいぶいい歳のおじさんだよ」
予感はしていた。
それでもこの邂逅に、息が、詰まる。
それは、ずっとずっと聴きたかった、懐かしい声。
「大人だって、ひとなら、神様は連れて行くもの…」
震える声。
いまにも、泣き出しそうな。
「もしかしたらそうかもしれないと思ったから、遅くなった。ごめん、スズ姉」
振り返ればそこには、狐の面を押し上げて大粒の涙を拭う、懐かしい彼女がいた。
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