新幹線

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新幹線

座席は4両目、5-Aの窓側。 私は、そそくさと荷物を棚に詰め、静かに腰を下ろした。 一息ついて、周りを見渡す。 乗客はまばらに座っていて、平日らしい様相だった。 静かに本を読む人、お化粧をするギャル、仕事の打ち合わせでパソコンを叩く人、ゲームする少年、みんな、それぞれの目的で新幹線の中を過ごしていた。 私は、あらかじめ買っておいた、お弁当を取り出す。 朝から何も食べていなかった私は、お腹がペコペコだった。 「ねえ、お姉ちゃん、今からどこいくの?」 通路を挟んで隣の席から、子どもが顔をのぞく。 「え、わたし?えっと、潮波だけど、どうして?」 「じゃあ、僕と一緒だ。僕ね、これから家族で遊園地行くんだあ」 「へえ・・・・・」 私は内心でドキっとした。 「おじいちゃんがね、潮波に住んでるんだ。お盆休みに家族で帰って、僕はおじいちゃんと遊園地。今から楽しみなんだ」 「そっかあ、よかったね」 こんなときに、私は何て答えれば良いのか分からず、適当な相槌を打ってしまう。 「お姉ちゃん、一人なの?家族は?」 「家族はいないの。と、というか、私一人で新幹線に乗ってるの」 「そうなんだ、なんだか、寂しいね」 余計な御世話だ、なんて言葉を胸の中にしまう。 子どもの言葉は、大人と違って悪意に満ちてないことを感がると、純粋にそう思ったのかもしれない。 「分かった。お姉ちゃん、ちょうしんりょこうでしょ?」 「ちょ、ちょうしん?」 「そう、恋人にフラれて、女の子を取り戻す旅行のことだよ」 少年は、身を乗り出すと、嬉しそうに話しかける。 「あ、それをいうなら・・・」 「それを言うなら、傷心旅行でしょ?」 少年の奥から新しい顔をのぞかせたのは、少年の母親と思われる人物だった。 少年に耳にそっと囁くように言う。 「ダメじゃない、お姉ちゃんに話しかけたら。仮にそうだとしても黙っておくものなのよ」 「そうなの?」 少年の母親は、少年にそう言うと、ジェスチャーで私に「ごめんなさい」の合図を送ってきた。私は、「いえいえ」という意思表示を手で振るようにして、伝えた。 私は、窓に目線を移す。 街並みはもうとっくに過ぎていて、今は山と林の景観が続いていた。 ー行き先は同じところか 私に話しかけた少年を思いながら、私は、自分の小さい頃を思い出していた。
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