2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
新幹線
座席は4両目、5-Aの窓側。
私は、そそくさと荷物を棚に詰め、静かに腰を下ろした。
一息ついて、周りを見渡す。
乗客はまばらに座っていて、平日らしい様相だった。
静かに本を読む人、お化粧をするギャル、仕事の打ち合わせでパソコンを叩く人、ゲームする少年、みんな、それぞれの目的で新幹線の中を過ごしていた。
私は、あらかじめ買っておいた、お弁当を取り出す。
朝から何も食べていなかった私は、お腹がペコペコだった。
「ねえ、お姉ちゃん、今からどこいくの?」
通路を挟んで隣の席から、子どもが顔をのぞく。
「え、わたし?えっと、潮波だけど、どうして?」
「じゃあ、僕と一緒だ。僕ね、これから家族で遊園地行くんだあ」
「へえ・・・・・」
私は内心でドキっとした。
「おじいちゃんがね、潮波に住んでるんだ。お盆休みに家族で帰って、僕はおじいちゃんと遊園地。今から楽しみなんだ」
「そっかあ、よかったね」
こんなときに、私は何て答えれば良いのか分からず、適当な相槌を打ってしまう。
「お姉ちゃん、一人なの?家族は?」
「家族はいないの。と、というか、私一人で新幹線に乗ってるの」
「そうなんだ、なんだか、寂しいね」
余計な御世話だ、なんて言葉を胸の中にしまう。
子どもの言葉は、大人と違って悪意に満ちてないことを感がると、純粋にそう思ったのかもしれない。
「分かった。お姉ちゃん、ちょうしんりょこうでしょ?」
「ちょ、ちょうしん?」
「そう、恋人にフラれて、女の子を取り戻す旅行のことだよ」
少年は、身を乗り出すと、嬉しそうに話しかける。
「あ、それをいうなら・・・」
「それを言うなら、傷心旅行でしょ?」
少年の奥から新しい顔をのぞかせたのは、少年の母親と思われる人物だった。
少年に耳にそっと囁くように言う。
「ダメじゃない、お姉ちゃんに話しかけたら。仮にそうだとしても黙っておくものなのよ」
「そうなの?」
少年の母親は、少年にそう言うと、ジェスチャーで私に「ごめんなさい」の合図を送ってきた。私は、「いえいえ」という意思表示を手で振るようにして、伝えた。
私は、窓に目線を移す。
街並みはもうとっくに過ぎていて、今は山と林の景観が続いていた。
ー行き先は同じところか
私に話しかけた少年を思いながら、私は、自分の小さい頃を思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!