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走る
トゥルルルルルルルルルルルルルー。
発車のベルが鳴った。
時計の時刻は8時40分を指そうとしていた。
私は、全速力で走っていた。
プラットホーム3、4番線、階段出口。
目の前の標的まで、まだ50メートルも残されている。
私は、つい20分前の出来事を思い出し、後悔していた。
ーどうして、私はいつもこうなんだろう・・・。
タクシー乗り場が分からない、おばあちゃんに乗り場まで道案内をしていたのだ。
ーああ、わたしのお人好し。いわんこっちゃない・・・。
プラットホームには、すでに客はいなかった。
私は、肩にかけたカバンの紐をたすき掛けにし、思いっきり手を振る。
陸上部で教えられた、手を振る回数=速さの論がこんなところで効くなんて思わなかった。
「間もなく発車致します。ご注意ください」
ーちょっと、待ったあああああああああ!
私は叫ぶ。これ以上ないほどに。
しかし、ベルの音が私の声をかき消す。
ーだ、だめ、ま、まだ
走馬灯が一瞬、頭をよぎる。あのどこまでも、まっすぐな瞳。
プシュー
伊勢志摩行き、新幹線が走り出す。
私は、ドアを背に倒れこむ。
カバンにつけたキャラクターストラップが私に静かに微笑みかけていた。
この先、どうなることやら。
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