走る

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

走る

トゥルルルルルルルルルルルルルー。 発車のベルが鳴った。 時計の時刻は8時40分を指そうとしていた。 私は、全速力で走っていた。 プラットホーム3、4番線、階段出口。 目の前の標的まで、まだ50メートルも残されている。 私は、つい20分前の出来事を思い出し、後悔していた。 ーどうして、私はいつもこうなんだろう・・・。 タクシー乗り場が分からない、おばあちゃんに乗り場まで道案内をしていたのだ。 ーああ、わたしのお人好し。いわんこっちゃない・・・。 プラットホームには、すでに客はいなかった。 私は、肩にかけたカバンの紐をたすき掛けにし、思いっきり手を振る。 陸上部で教えられた、手を振る回数=速さの論がこんなところで効くなんて思わなかった。 「間もなく発車致します。ご注意ください」 ーちょっと、待ったあああああああああ! 私は叫ぶ。これ以上ないほどに。 しかし、ベルの音が私の声をかき消す。 ーだ、だめ、ま、まだ 走馬灯が一瞬、頭をよぎる。あのどこまでも、まっすぐな瞳。 プシュー 伊勢志摩行き、新幹線が走り出す。 私は、ドアを背に倒れこむ。 カバンにつけたキャラクターストラップが私に静かに微笑みかけていた。 この先、どうなることやら。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!