エピソード1

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 昔は管理人付きの寮があったのだそうだが今はニーズに合わないと、管理人はいなくなった。このワンルームマンションは、独身者が入れるようになっている、一応会社のものだから社宅になるのかな。上はファミリーが入れるらしいけどよく知らないし、中にはこの狭い空間に二人ではいっている人もいるって聞いたけど、まあ、それは、おいおいという事で、今は内緒で三人住むしかなくて。 「はー疲れた」  狭い玄関には新聞紙が敷いてあり、外で脱ぐ、それをもって下駄箱にすぐ入れた。 「ただいま」 「おかえり」 「おかえりなさい」  弟二人に出迎えられ、なぜかほっとしてる。 「ご飯食べた?」 「食べた」 「ご飯ないよ」  いいよと言って、インスタントのご飯があるからといった。キッチンには長年使ったものが数多くある、ただそこにはない両親の茶わんや箸、空になった炊飯ジャーは年季の入ったもの、大事に使わなきゃ。  学校はどうだった、保育園はどうだったと二人の弟が喋り捲り。今が楽しければいい、明日何が起こるかなんてわかんないし、あんだけ泣いたんだもん。 二人と抱き合うようにして寝た。この先、泣こうがわめこうが、三人で生きて行かなきゃならないんだ。  そう決めたら腹が決まった。  二人には言い聞かせた、安い給料で、ぜいたくはできないけど、辛抱してほしい。我慢もしてもらわなきゃいけないけど、出来る? うんと二人は泣きながらうなずいた、それを抱きしめることしかできなかった。  私は泣く事と、涙を封印した。  何もかもが変わってしまった、それでもがんばって、歯を食いしばって年を越した。 春になればまたお金がいる、今は何が何でも稼がなくちゃいけない。
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