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真杜の部屋で「これなんだけど」と紙の束を渡された時点で、雫は真杜の異変に気付いていた。
ルーズリーフに手書きの原稿。雫は今まで、こんなものは見たことがなかった。真杜は完璧主義で、そのうえ几帳面だ。新作のネタはいつだってパソコンで打ち直され、プリントアウトしたものしか見せてもらったことがない。
ライブが近付いてきて焦っているのだろうか? とも考えてみるが、真杜の性格上、手書きの原稿を見せることよりも、焦っていることを気付かれることのほうが嫌に決まっている。だから、原稿が手書きだからといって焦っているわけではないのだろうと、雫は考えを打ち消した。
「どう?」
「どうって聞かれても……なあ? おまえ変だぞ? 熱でもあんの?」
「ないよ」
「……ふーん」
じゃあいいけどと、雫は紙の束をテーブルに置いた。妙な沈黙が流れる。
真杜が雫を部屋に呼んだのは、もちろんツイッターの件を確認するためだった。ネタを見てほしいなどというのは、雫をおびきよせるための餌にすぎない。ここからが本番だと、真杜は静かに口を開いた。
「あのさあ、うのちゃん。前にさ、合同ライブでなんか面白いことやろうって言ってたじゃん。あれ、どうなってる?」
「どうって、別に」
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