2234人が本棚に入れています
本棚に追加
/563ページ
真杜の探るような瞳から逃れるように、雫はそっと視線を逸らした。
「白井に聞いたんだけど」
逸らした視線を床にさげ、雫は背中を壁にくっつけた。その様子を真杜はじっと観察するように眺めている。
雫は床を見ながら考えていた。
白井の名前が出た時点で、ツイッターのことを聞きたいのだろうということはわかった。新作のネタができたから見てほしいというのも、部屋へとおびきだすための罠だったのだということもわかる。
けれど、その先がわからない。真杜がなにを探ろうとしているのか。もしも、どんなツイートをしているのか見せろと言われたら、雫にはうまく交わせる自信がなかった。
雫がツイッターをはじめたのは、当初は本当にライブで使えるかもしれないと思ってのことだった。OLを演じて、それに群がる男たちの生態をおもしろおかしくライブで発表してやろうと思っていたのだが、なかなか思うような成果が得られず使えないと判断した。
そこでやめてしまえばよかったのだが、せっかくアカウントも作ったしと、いつしか誰にも言えない『ひとりごと』を呟くようになってしまったというわけだ。
そう。
真杜が知っている『カノン』は雫なのだ。
「……なに聞いたか知らねぇけど、おまえには関係のないことだろ」
長い沈黙のあとに雫が導きだした答えは、真杜を突き放すことだった。
最初のコメントを投稿しよう!