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だけど、これは違う。おかしいだろうと、紺野は努めて優しい声で真杜に説教を試みる。
「別におまえらがどうなろうと知ったこっちゃないけど、雫ちゃんを物かペットみたいに言うんは感心せえへんな」
なあ? と、いつもの調子で紺野は雫の髪に手を伸ばした。
「だから、それ。こういうの。やめてください」
指先が雫の髪に触れる手前で、真杜にぐっと手を掴まれ紺野の指先がもがく。真杜と紺野の視線が交差し、先に視線を逸らしたのは紺野だった。
(こいつ、なんちゅう目ぇすんねん)
冷たく煙る氷のような目。顔は笑っているが、真杜の目は少しも笑ってなどいなかった。
紺野は以前から、真杜のことを少し変わった後輩だと思っていた。
物腰がやわらかく人当たりもいい。先輩にかわいがられ後輩には慕われている。一見すると優等生だ。
だけど、雫に対する態度だけはいただけない。優しくしているようで冷たい。突き放しているようで、ひどく執着している。その落差の中で、いつも雫は不安定に揺れているように見えて、紺野はそれが心配でならなかった。
紺野は、雫の両肩を掴んで「目を覚ませ」と揺すってやりたいのをぐっとこらえながら、優しく問いかけた。
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