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ミチコは自分の思ったことに苦笑した。
「さびしくなるわ」
「俺のいなくなるのが? それとも映像が見れなくなるのが?」
「ばか」
虚像の椰子の木にもたれてミチコは怒った顔をつくる。
「トーマがいなくなるのが、に、決まってるでしょ」
波頭が白く泡立ち、駆ける馬の脚のように崩れて寄せた。美しいビーチは日差しに輝き、広く遠く静かだ。
「俺も……寂しい。ミチコと別れるのが」
ぽつん、と言葉が放り出された。
「たった一人で宇宙の中を彷徨うんだ。未知の文明、異なった生命を求めて。確率の低い、当てのない旅……」
太陽が少しかげる。海の色が深くなった。
「冷たくて……透明で、深い……死んだような世界の中--」
「トーマ」
「ミチコ……」
言いかけたミチコの言葉をトーマがさえぎった。波はさっきより少し高くなっている。風が……出てきたのだろうか。
「ミチコと学習するのはとても楽しかった。ミチコはいろいろなことを俺に教えてくれた。感情も……そうだ。だけど、俺は今後悔している。そんなものを知ってしまったことを」
「…………」
海は灰色だ。うねる波は粘土のように重く、厚い。トーマの声はミチコの耳に悲しく響いた。
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